へいきちの戦略
へいきちが、うちの塀のうえに、頻繁に訪れるようになったのは、シードが、亡くなってからである。
塀の上にいるので、夫が、へいきちと名付けたのだが、果たして、
彼か、彼女か、分からない。多分彼女なのだろう。
年齢も、分からないけれど、若くなさそうだ…(しかし夫は、まだ、若いんちゃうかと、言う。こちら様には、抵抗しないことに決めて、生活の安寧を保っているので、
ああ、そうですかね~で、済ましている。)
暫くは、塀の上に。
冬場になると、給湯器のうえに、移動。
寒いのね。
と思って、シードのために買っていた屋根付き座布団を、用意してやった。いつのまにか、そこで、こそっと昼寝していた。
さらに寒くなったら、カイロを一つ二ついれてやると、そこは、あたかも彼(彼女)の、own room。
温かくなって、最近、夏日とかになって来ると、この、屋根付き座布団を、敬遠するようになってきた。
塀の上が、涼しいのだろう。
塀の端っこは、ヒイラギの枝葉で、隠れている。水撒きをしていて、そこで、寝そべるへいきちに、びっくりしたことがある。
こんな時とか…
冷たいコンクリートの上を移動して、暑さ凌ぎ…
おくつろぎである。
そうそう、冬場。
中庭に面しているガラス戸と、網戸を閉めて寝るのだが、なぜか、外側の網戸が、数センチ開いていることがあった。
夜中、気付いた時に、締め忘れたのね…と、しっかりと閉めるのだが、翌朝また、数センチ開いている。
そんなことが、度々あり、みなで、不思議がっていた。
風…
ヒト…
猫は開けられんやろう…
探偵ナイトスクープもんやなぁ。
それが、最近へいきちのしわざであることが、判明した。
朝、夫が、たまたま、ほんの少しガラス戸を開けていた日があった。
網戸は閉まっていた。
すると、その日遅出した、次女が、階段を降りようとして、「うわっ」と。
部屋の中に、へいきちが、入って座っていたのだ。
声に驚いたのか、へいきちは一旦、飛び出したものの、暫くすると、夫の仕事場に、入り込んでいた。
夫が、本を片付けようとしていたダンボールの中に、鎮座していらっしゃった、のだ。
雨がひどく降った朝、ニャアニャア言うので、網戸だけ閉めて、部屋側に、そのダンボールを置いてやったのだが、入って来る気配はない。
仕方なく、夫が、旧へいきち邸のベンチの下に、ダンボールを、置いてみると、するっと、そこに収まり、その日は、そこで一日寝ていたようだ。
旧へいきち邸には、もう戻りそうにない。
家の前にあんなタオルのはみ出たダンボールを置かれたら、汚ならしいからやめて。と、次女がいう。
昨夜。
うるさかった。
ニャアニャアニャア…どうして欲しいのかしら。
体をひっくり返して、のびます…
コンクリートのかべに、頭をゴリゴリします…
はいりたいのなら、入れば良いのに。
開けてあるやん。ガラス戸も。
風呂に入っている間に、なにやら騒がしいと思ったら、
長女が、「二階まで上がってきたわ。」
こんどは、タオルでなく赤い敷物をダンボールにいれて、部屋側の例の網戸の前に、置いておいた。
今朝、しっかりそこで、寝ていらっしゃるのを発見…
うーん。
どないして欲しいの?
飼い猫にして欲しいの?
ならば、私をみて、逃げないでよ。
娘たちが、帰ってきたら、スリスリ、ふみふみするらしいのだが。
こそっと入ったところが、見つかると、脱兎のごとく、外へにげて行くのだ。
取り敢えずダニ怖いし、ノミもイヤやから、体にふりかける、薬を買って来るわと、次女が言う。
長女は、動物の毛のアレルギーで、3分もすると、鼻水と涙まみれになる。
シードのときは、それを堪えて、撫でていた。夕べの、騒動の後も、鼻水、ズルズルしていた。
ほんまに飼うんですか?
いうても、
最初に、えさ買ってきたのも私やし
シードの屋根付き座布団を整えたのも私、
カイロ入れたのも私で、
なんか、一番責任あることをしているのは、私なんだけれど。
「家のことが落ち着いたら、飼ってやっても良いよ。」と、呟いたり、してたのは、私だけではなかったらしく…
「家のこと落ち着いたら、飼ったやるって言ったじゃん。」と、
約束の履行を、へいきちが、実力行使しているのではないかと。思う日々。